私たちの暮らしの中には、本物の革にそっくりな素材があちこちで使われています。
たとえばリビングのソファ、オフィスの椅子、車やバス、電車の座席など。

その多くに使われているのが「PVCレザー」や「PUレザー」と呼ばれる合成皮革です。
見た目や触り心地は革に近く、お手入れも簡単。さらに価格も比較的手頃なので、家庭から公共施設まで幅広い場所で活躍しています。
こうした合成皮革に欠かせない大切な性能のひとつが「燃えにくさ」、つまり難燃性です。
普段はあまり意識することがないかもしれませんが、火災のリスクを考えると、とても重要な役割を担っています。
火事は予期せぬタイミングで発生します。
特に電車やバス、病院、映画館といった人が多く集まる場所では、一度火がついてしまうと大きな被害につながりかねません。
そのとき、内装に使われている素材が燃えやすいか燃えにくいかは、被害の大きさを左右します。
難燃性を持つ素材なら、炎が広がるスピードを抑え、避難のための貴重な時間をつくり出すことができます。
つまり、燃えにくいという性質は、人の命を守るために欠かせない要素なのです。
PVCレザーは「塩化ビニル樹脂」を使った合成皮革です。
実はこの素材そのものに、火がつきにくく、燃えても炎が消える性質(自己消火性)があります。
こうした特性のおかげで、PVCレザーは公共交通機関の座席や病院の待合椅子など、火災対策が重視される場面で広く利用されています。
ただし、課題もあります。PVCは燃えると黒い煙や有害なガスを発生することがあり、安全面で懸念される場合があります。
そのため近年では、煙の発生を抑えたり、より安全な難燃剤を組み合わせたりする技術が進化しています。
一方のPUレザーは「ポリウレタン樹脂」をベースとした合成皮革です。
PVCに比べて軽く柔らかく、しなやかで高級感のある質感が特長です。
そのため、高級家具や車の内装などにも人気があります。ところがポリウレタンは可燃性が高いため、そのままでは火に弱いという欠点があります。
そこで、素材に「難燃剤」と呼ばれる薬剤を加えたり、表面に燃えにくいコーティングを施したりして安全性を高めています。
特に飛行機や鉄道車両で使うPUレザーは、国際的に非常に厳しい燃焼試験をクリアする必要があります。

たとえば、燃えにくいだけでなく「煙の量が少ないこと」や「有害ガスをできるだけ出さないこと」も求められます。
燃えにくさをめぐる基準は、年々厳しくなっています。ヨーロッパやアメリカでは家具にも燃焼試験が義務付けられており、日本でも建築基準法やJIS規格に基づいて評価されています。
こうした規格を満たすだけでなく、デザイン性や耐久性、さらに環境への配慮も同時に実現する必要があります。
普段、ソファや電車の座席に座るとき、「これは燃えにくい素材かな」と考える人はほとんどいないでしょう。
しかし、合成皮革の「難燃性」は、いざというときに人の命を守る大切な性能です。
見た目や手触りの良さの裏には、安全を支えるための技術がしっかり詰まっています。
これから先、合成皮革の難燃技術はさらに進化し、より快適で環境にも優しい製品が登場していくでしょう。